脳の病気

【脳腫瘍】 脳腫瘍総論

この項では脳腫瘍の一般的な知識を書きますが、脳腫瘍には多くの種類があり、それぞれ治療法も違います。
脳実質内腫瘍は脳腫瘍②
脳実質外腫瘍・小児の脳腫瘍は脳腫瘍③
転移性脳腫瘍は脳腫瘍④に分けて書きます。



脳腫瘍

どんな病気
脳腫瘍とは頭蓋内に発生するすべての腫瘍の総称です。その場所に生じた原発性脳腫瘍(82.1%)と身体の他の部位の癌が転移した転移性脳腫瘍(17.9%)に分けられます。原発性脳腫瘍は脳そのものから発生する脳実質内腫瘍と、脳を包む膜や脳神経・下垂体などから発生する脳実質外腫瘍に分けられます。原発性脳腫瘍は、人口10万人つき年間10-12人の割合で発生するといわれ、全国で年間約10000件の手術が行われています。
脳腫瘍はゆっくり脳の中を広がるように進行しますので、急に症状が出ることは殆どありません。しかし症状はだんだんはっきりしてきます。また30%程度はけいれんが最初の症状です。

腫瘍とは細胞の遺伝子が変化し、細胞が自律的にどんどん増殖してしまうようになった新生細胞群と、それを支持する組織からなるものを言います。
癌に代表される悪性腫瘍は宿主が生きている限り増大し、他の組織へ浸潤していきます。良性のものは脂肪の固まりの脂肪腫のように増殖能がとても低く一定の大きさになると成長が止まるものもあります。
しかし脳腫瘍の場合はその腫瘍の増殖能が問題になるだけでなく、良性の腫瘍でもできた場所によって重大な症状を起こします。また脳は固い頭蓋骨に囲まれているため、頭蓋骨の中の体積が限定されています。
このことから、良性の腫瘍であっても、ある程度の大きさになると頭蓋骨の中の圧が高くなり、生命をおびやかすことがあります(頭蓋内圧亢進)。

このような理由から脳腫瘍の場合は悪性・良性は細胞の増殖能だけで一概に論ずることができません。
脳組織自体にできる腫瘍は神経膠腫(グリオーマ)と呼ばれる脳腫瘍や悪性リンパ腫などがあります。脳組織以外にできる腫瘍は脳を包んでいる髄膜にできる髄膜腫や脳から出る細い神経にできる神経鞘腫、脳の下方にぶら下がっていて色々なホルモンを分泌している下垂体にできる下垂体腺腫などが主なものです。脳腫瘍はそれぞれ治療法が違います。脳腫瘍は全部で数十種類あり、更に一つの腫瘍が細かく分類されていますからここに全部挙げることはできません。しかしここにあげた腫瘍で脳腫瘍全体の80%程度になります。

小児にできる脳腫瘍は成人の場合とかなり違いますので、脳腫瘍③でその特徴を書きます。

どんな症状
ゆっくりと進行
脳腫瘍はゆっくり大きくなったり、脳の中を広がるように進行しますので、急に症状が出ることは殆どありません。しかし症状はだんだんはっきりしてきます。脳腫瘍の30%程度はけいれんが最初の症状です。けいれんとは一過性に意識がなくなって倒れ手足がガクガクしたり、話しをしていて急にうわのそらになって口をモグモグ動かすような動作をしたりするものです。どちらにしろ一過性ですっかり元に戻りますから、繰り返さないと病院に行かないで済ましてしまい、病院で診断された時にはすでに脳腫瘍が大きくなり過ぎているということも良くあることです。

初期の症状
初期の脳腫瘍ではけいれん発作以外は頭痛やなんかボーッとして性格が変ったというような曖昧な症状しかない場合が殆どです。進行してくると局所神経症状として片麻痺(片方の手足の力が抜けること)・片方の手足の感覚障害・視野障害(目の見える範囲が狭まる)・視力障害・言語障害などの症状が起こります。急な激しい頭痛や急に手足が動かなくなる場合は一般に脳卒中が多いのですが、脳腫瘍の場合は腫瘍の中に出血した場合にそのような症状になります。

脳腫瘍が大きくなった時の症状
しかし脳腫瘍がある程度以上大きくなると周りの脳も脹れ始めて(脳浮腫)頭蓋骨内圧亢進状態となり、頭痛・嘔吐・意識障害を起こしてきます。このような場合は早急な手当てが必要です。また頭蓋骨の中は髄液という透明な液があり、その中に脳が浮いています。脳の中心部にも髄液が溜まっている脳室という部分があり、脳腫瘍が脳室の髄液の流れを塞ぐように成長すると、髄液の逃げ場がなくなって髄液が脳室の中に溜まり、脳室が大きくなる水頭症という病気を引き起こします。これは子供や若い人の脳腫瘍で多く見られるものですが、この場合は頭痛とともに嘔吐を伴ってきます。早いうちに対処しないと重大な結果になることがあります。

下垂体腺腫にできる腫瘍
一方、下垂体腺腫はホルモンを出すところですからホルモンの異常があれば非常に小さな1cm以下のものでも見つかることがあります。
これについては脳腫瘍③を読んで下さい。

どんな診断・検査
今迄書きましたように、脳腫瘍の症状は最初は比較的分かりにくいものです。頭蓋内圧亢進や水頭症で強い頭痛・嘔吐・意識障害が起これば必ず病院へ行くことになると思いますが、そうでない場合は意外と気づかないものです。脳腫瘍の最初の症状としてけいれんが多いことを書きましたが、成人になって始めて起こるけいれんは脳に何らかの病気(脳腫瘍・脳動静脈奇形・脳梗塞・脳の外傷)がある場合が多く、必ず脳の検査を受けて下さい。

脳のCTやMRI(核磁気共鳴装置)検査
脳腫瘍の診断は症状がはっきりしている場合は別ですが、結局脳のCTやMRI(核磁気共鳴装置)検査をしないと分かりません。自動車を運転していて交通事故を起こし、頭部外傷でCT検査をしたら偶然に脳腫瘍がある事が分かり、調べると視野の左側が見えていなくて(半盲)、それで事故を起こしたのだと分かった例もあります。
検査が簡単にできますから脳神経外科の外来では頭痛で来られる方にも殆どはCTやMRI検査をすることになりますが、実際には脳腫瘍が見つかることは殆どありません。色々な病院で検査をして偶然見つかった場合に紹介で見えることが殆どです。

腫瘍をより分かりやすくする造影検査
CTやMRIを行う場合、造影検査といって腫瘍をより分かりやすくするため造影剤を注射することがあります。造影剤を使わないで検査をした場合に脳腫瘍と診断できずに脳梗塞と診断されてしまうこともあります。専門の病院では脳腫瘍が疑わしい場合には必ず一度は造影剤を使用した検査を行います。

治療が必要な場合の種別診断
脳腫瘍が分かり治療が必要な場合には入院して、脳血管造影や核医学的検査(SPECTと呼ばれるもの)を行って脳腫瘍の種別診断を行っていきます。こういった診断法は画像診断といいます。
しかし腫瘍の良性や悪性度、細かい分類などは結局手術(頭蓋骨を大きく開ける開頭術と小さな穴から少量の腫瘍を取る生検とがあります)をして病理標本を作ってみないと分かりません。

どんな治療法
脳腫瘍の治療法はその腫瘍の種類によってかなり違います。それぞれの腫瘍については各論を見て下さい。

大きな腫瘍
頭蓋内圧亢進がきているような大きな腫瘍は基本的には開頭手術で脳腫瘍を取り除く手術が必要です。水頭症がある場合には髄液を外へ出す手術を緊急で行ってから、その後の治療法を決めることもあります。神経膠腫などの脳実質にできる脳腫瘍は手術だけで治すことはできないので、手術後に放射線治療や抗癌剤を使った化学療法を行うことがあります。

良性の腫瘍
髄膜腫や神経鞘腫のように良性の腫瘍は手術で大部分を取り除ければ再発する率は10%前後です。しかし脳腫瘍の場所によっては手術が困難な場所も多く、手術で完全に治せるものは3分の2ぐらいになると考えられます。

小さな髄膜腫・神経鞘腫
小さな髄膜腫や神経鞘腫はガンマナイフ治療(現在日本で53施設)と言って放射線のビームを脳腫瘍に集中的にあてる方法で治療することができます。1-2泊の入院で患者さんの負担も少ない方法です。この場合脳腫瘍はすぐになくなりませんが、90%程度で脳腫瘍の成長が止まります。

どんな予防法
腫瘍細胞は正常の細胞の遺伝子が病的に変化したものです。遺伝子変化にはなにかきっかけがあるはずですが、脳腫瘍に関しては今の所分かっていることは殆どありません。また脳腫瘍は生活習慣とは殆ど関係ないので、予防することはできません。稀ですが、ある種の脳腫瘍は遺伝性があります。皮膚や目に特徴的な症状がある場合が多いのですが、遺伝形式は常染色体優性遺伝で、両親のうち1人が患者であれば子供の2人に1人が病気の遺伝子を持つことになります。
良性の脳腫瘍はガンマナイフ治療などの治療法がありますから、小さいうちに見つかった方が治療効果も高く、患者さんの負担も少ないと言えます。

(文責:髙橋 伸明)
この項では脳腫瘍の一般的な知識を書きますが、脳腫瘍には多くの種類があり、それぞれ治療法も違います。
脳実質内腫瘍は脳腫瘍②
脳実質外腫瘍・小児の脳腫瘍は脳腫瘍③
転移性脳腫瘍は脳腫瘍④に分けて書きます。



脳腫瘍

どんな病気
脳腫瘍とは頭蓋内に発生するすべての腫瘍の総称です。その場所に生じた原発性脳腫瘍(82.1%)と身体の他の部位の癌が転移した転移性脳腫瘍(17.9%)に分けられます。原発性脳腫瘍は脳そのものから発生する脳実質内腫瘍と、脳を包む膜や脳神経・下垂体などから発生する脳実質外腫瘍に分けられます。原発性脳腫瘍は、人口10万人つき年間10-12人の割合で発生するといわれ、全国で年間約10000件の手術が行われています。
脳腫瘍はゆっくり脳の中を広がるように進行しますので、急に症状が出ることは殆どありません。しかし症状はだんだんはっきりしてきます。また30%程度はけいれんが最初の症状です。

腫瘍とは細胞の遺伝子が変化し、細胞が自律的にどんどん増殖してしまうようになった新生細胞群と、それを支持する組織からなるものを言います。
癌に代表される悪性腫瘍は宿主が生きている限り増大し、他の組織へ浸潤していきます。良性のものは脂肪の固まりの脂肪腫のように増殖能がとても低く一定の大きさになると成長が止まるものもあります。
しかし脳腫瘍の場合はその腫瘍の増殖能が問題になるだけでなく、良性の腫瘍でもできた場所によって重大な症状を起こします。また脳は固い頭蓋骨に囲まれているため、頭蓋骨の中の体積が限定されています。
このことから、良性の腫瘍であっても、ある程度の大きさになると頭蓋骨の中の圧が高くなり、生命をおびやかすことがあります(頭蓋内圧亢進)。

このような理由から脳腫瘍の場合は悪性・良性は細胞の増殖能だけで一概に論ずることができません。
脳組織自体にできる腫瘍は神経膠腫(グリオーマ)と呼ばれる脳腫瘍や悪性リンパ腫などがあります。脳組織以外にできる腫瘍は脳を包んでいる髄膜にできる髄膜腫や脳から出る細い神経にできる神経鞘腫、脳の下方にぶら下がっていて色々なホルモンを分泌している下垂体にできる下垂体腺腫などが主なものです。脳腫瘍はそれぞれ治療法が違います。脳腫瘍は全部で数十種類あり、更に一つの腫瘍が細かく分類されていますからここに全部挙げることはできません。しかしここにあげた腫瘍で脳腫瘍全体の80%程度になります。

小児にできる脳腫瘍は成人の場合とかなり違いますので、脳腫瘍③でその特徴を書きます。

どんな症状
ゆっくりと進行
脳腫瘍はゆっくり大きくなったり、脳の中を広がるように進行しますので、急に症状が出ることは殆どありません。しかし症状はだんだんはっきりしてきます。脳腫瘍の30%程度はけいれんが最初の症状です。けいれんとは一過性に意識がなくなって倒れ手足がガクガクしたり、話しをしていて急にうわのそらになって口をモグモグ動かすような動作をしたりするものです。どちらにしろ一過性ですっかり元に戻りますから、繰り返さないと病院に行かないで済ましてしまい、病院で診断された時にはすでに脳腫瘍が大きくなり過ぎているということも良くあることです。

初期の症状
初期の脳腫瘍ではけいれん発作以外は頭痛やなんかボーッとして性格が変ったというような曖昧な症状しかない場合が殆どです。進行してくると局所神経症状として片麻痺(片方の手足の力が抜けること)・片方の手足の感覚障害・視野障害(目の見える範囲が狭まる)・視力障害・言語障害などの症状が起こります。急な激しい頭痛や急に手足が動かなくなる場合は一般に脳卒中が多いのですが、脳腫瘍の場合は腫瘍の中に出血した場合にそのような症状になります。

脳腫瘍が大きくなった時の症状
しかし脳腫瘍がある程度以上大きくなると周りの脳も脹れ始めて(脳浮腫)頭蓋骨内圧亢進状態となり、頭痛・嘔吐・意識障害を起こしてきます。このような場合は早急な手当てが必要です。また頭蓋骨の中は髄液という透明な液があり、その中に脳が浮いています。脳の中心部にも髄液が溜まっている脳室という部分があり、脳腫瘍が脳室の髄液の流れを塞ぐように成長すると、髄液の逃げ場がなくなって髄液が脳室の中に溜まり、脳室が大きくなる水頭症という病気を引き起こします。これは子供や若い人の脳腫瘍で多く見られるものですが、この場合は頭痛とともに嘔吐を伴ってきます。早いうちに対処しないと重大な結果になることがあります。

下垂体腺腫にできる腫瘍
一方、下垂体腺腫はホルモンを出すところですからホルモンの異常があれば非常に小さな1cm以下のものでも見つかることがあります。
これについては脳腫瘍③を読んで下さい。

どんな診断・検査
今迄書きましたように、脳腫瘍の症状は最初は比較的分かりにくいものです。頭蓋内圧亢進や水頭症で強い頭痛・嘔吐・意識障害が起これば必ず病院へ行くことになると思いますが、そうでない場合は意外と気づかないものです。脳腫瘍の最初の症状としてけいれんが多いことを書きましたが、成人になって始めて起こるけいれんは脳に何らかの病気(脳腫瘍・脳動静脈奇形・脳梗塞・脳の外傷)がある場合が多く、必ず脳の検査を受けて下さい。

脳のCTやMRI(核磁気共鳴装置)検査
脳腫瘍の診断は症状がはっきりしている場合は別ですが、結局脳のCTやMRI(核磁気共鳴装置)検査をしないと分かりません。自動車を運転していて交通事故を起こし、頭部外傷でCT検査をしたら偶然に脳腫瘍がある事が分かり、調べると視野の左側が見えていなくて(半盲)、それで事故を起こしたのだと分かった例もあります。
検査が簡単にできますから脳神経外科の外来では頭痛で来られる方にも殆どはCTやMRI検査をすることになりますが、実際には脳腫瘍が見つかることは殆どありません。色々な病院で検査をして偶然見つかった場合に紹介で見えることが殆どです。

腫瘍をより分かりやすくする造影検査
CTやMRIを行う場合、造影検査といって腫瘍をより分かりやすくするため造影剤を注射することがあります。造影剤を使わないで検査をした場合に脳腫瘍と診断できずに脳梗塞と診断されてしまうこともあります。専門の病院では脳腫瘍が疑わしい場合には必ず一度は造影剤を使用した検査を行います。

治療が必要な場合の種別診断
脳腫瘍が分かり治療が必要な場合には入院して、脳血管造影や核医学的検査(SPECTと呼ばれるもの)を行って脳腫瘍の種別診断を行っていきます。こういった診断法は画像診断といいます。
しかし腫瘍の良性や悪性度、細かい分類などは結局手術(頭蓋骨を大きく開ける開頭術と小さな穴から少量の腫瘍を取る生検とがあります)をして病理標本を作ってみないと分かりません。

どんな治療法
脳腫瘍の治療法はその腫瘍の種類によってかなり違います。それぞれの腫瘍については各論を見て下さい。

大きな腫瘍
頭蓋内圧亢進がきているような大きな腫瘍は基本的には開頭手術で脳腫瘍を取り除く手術が必要です。水頭症がある場合には髄液を外へ出す手術を緊急で行ってから、その後の治療法を決めることもあります。神経膠腫などの脳実質にできる脳腫瘍は手術だけで治すことはできないので、手術後に放射線治療や抗癌剤を使った化学療法を行うことがあります。

良性の腫瘍
髄膜腫や神経鞘腫のように良性の腫瘍は手術で大部分を取り除ければ再発する率は10%前後です。しかし脳腫瘍の場所によっては手術が困難な場所も多く、手術で完全に治せるものは3分の2ぐらいになると考えられます。

小さな髄膜腫・神経鞘腫
小さな髄膜腫や神経鞘腫はガンマナイフ治療(現在日本で53施設)と言って放射線のビームを脳腫瘍に集中的にあてる方法で治療することができます。1-2泊の入院で患者さんの負担も少ない方法です。この場合脳腫瘍はすぐになくなりませんが、90%程度で脳腫瘍の成長が止まります。

どんな予防法
腫瘍細胞は正常の細胞の遺伝子が病的に変化したものです。遺伝子変化にはなにかきっかけがあるはずですが、脳腫瘍に関しては今の所分かっていることは殆どありません。また脳腫瘍は生活習慣とは殆ど関係ないので、予防することはできません。稀ですが、ある種の脳腫瘍は遺伝性があります。皮膚や目に特徴的な症状がある場合が多いのですが、遺伝形式は常染色体優性遺伝で、両親のうち1人が患者であれば子供の2人に1人が病気の遺伝子を持つことになります。
良性の脳腫瘍はガンマナイフ治療などの治療法がありますから、小さいうちに見つかった方が治療効果も高く、患者さんの負担も少ないと言えます。

(文責:髙橋 伸明)
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