出血性脳卒中(くも膜下出血・脳内出血)と虚血性脳卒中(脳梗塞)は、ともに脳血管の異常によって起こる病気で、これらを合わせたものが一般に脳卒中(脳血管疾患・脳血管障害)といわれています。脳梗塞は昔は脳軟化といわれ、脳出血は脳溢血といわれていました。
脳出血は突然起こり、頭痛もひどく、症状も強いですから殆どの場合救急車で病院に運ばれてきます。診断は症状から比較的容易ですが、最終的にはCTが有用です。MRIも有用な検査でT2スターという撮像で診断が容易になります。脳内出血の重症度は意識レベル、CT上の血腫の広がり、血腫の量で判定します。意識レベルは重症例ではどんなに刺激をしても眼を開けない状態となり、昏睡状態となります。
家や職場での対応
当然ですが重症になればなるほど予後も悪くなります。家や職場で脳内出血で人が倒れたらともかく呼吸の確保が大切です。ネクタイや首の周りをゆるくして、お腹のベルトも緩めます。脳内出血では嘔吐することが多いので、嘔吐物が喉に詰まって窒息する場合や、肺の中に入って誤嚥性肺炎をおこします。これを予防するためには身体を横に向けます。そして口の中に詰まっているものを取り除きます。以前は脳卒中の人は動かしてはいけないといわれていましたが、現在はともかくすぐに病院へ運ぶことを考えて下さい。
症状が軽い場合
脳内出血は発症1-6時間で出血が止まります。ですから6時間以上経っても意識障害がなく症状が軽い例では手術はせずにそのまま様子をみます。血圧が高い人が多いですから血圧を下げる薬を使い、脳の腫れ(脳浮腫)を軽くする薬(グリセオール)を点滴します。発症してすぐに病院へ行った場合、症状が軽くてもまだ出血が止まっていない場合がありますから、2-3時間後にもう一度CTを行って大きくなっていないか確認します。
急性期の手術の適応
被殻出血では血腫の量が30ml以上で意識が半昏睡状態(刺激で眼は開けないが身体を動かす)のものが急性期の手術の適応となります。手術は頭蓋骨を開ける開頭手術と、小さな穴から血腫を吸引する定位脳手術的血腫吸引術とがありますが、大きな血腫で救命の意味も考慮して行う場合は開頭術が、また6時間以上経っていたり中程度の血腫の場合は吸引術が結果が良いと考えられます。しかし手術適応と手術法は患者さんの年齢や合併症、家族や本人の意思などを考慮して、その場の状況で判断するということになります。しかし被殻出血の場合は手術しても麻痺は残ります。意識障害の改善や早期回復を目的とした手術ですので誤解しないようにして下さい。
出血の場所にあわせて治療
視床出血に対しては開頭手術をしません。脳室の中に出血が多かったり、水頭症を来した場合に髄液を外へ出す手術をします(脳室ドレナージ)。血腫が大きければ血腫吸引術を行うことがあります。
小脳出血は進行が急で、水頭症を起こすこともあり、手術で症状をかなり改善できますからある程度の大きさの出血であればすぐに手術をします。
脳葉出血は前述のように若い人では脳動静脈奇形の可能性もありますから、血管造影や3D-CTAを行い、出血の原因となる病気があるかどうか確認します。出血が大きい場合はすぐに開頭手術を行いますが、この場合は片麻痺などの症状を改善することができます。
脳動静脈奇形が見つかった場合は小さな物では急性期に血腫を取る時に全摘できますが、大きな物や複雑なものは残ります。落ち着いてから残った脳動静脈奇形に対する治療を行います。脳動静脈奇形に対する治療は脳動静脈奇形の項に書いてあります。
本人・家族の意思
脳内出血の治療で悩むのは高齢者や非常に重症例・危篤状態の例です。危篤状態の例は手術でしか救命できません。しかし重症であればあるほど、術後の状態も悪く、必ずしも救命できるわけではありませんし、遷延性意識障害といって眼は開けているけど外界とのコミュニケーションが全く取れない状態や、寝たきりの状態になることが殆どです。
御家族は「できるだけのことをして下さい」「先生におまかせします」という表現を良く使われますが、手術後に遷延性意識障害となった場合の長期の闘病生活は御家族にとっても決して楽なものではありません。
また、現在の医療制度では一つの病院に3ヶ月以上長期にわたって入院することは難しい状況ですので、転院を繰り返しているのが現状です。このような例では病前の御本人の意思を確認しておくことも必要でしょうし、「できるだけのこと」が決して患者さんや家族にとって最善の方法ではないことを理解して判断すべきでしょう。外科医は家族が手術を希望した場合、手術をしないという決断はし難いものです。
リハビリテーション
脳内出血では片麻痺等の脳内出血特有の症状は保存的治療でも外科的治療でも残ります。ですからリハビリテーションが最も大切です。リハビリテーションは発症早期から必要です。特に、長く寝ていると手や足が固くなってしまう拘縮が起こりますので、足関節・膝関節・股関節や肩・肘・手指の関節を動かします。また手にはタオルを巻いたものを握らせます。ベッドで寝ている時の手や足の位置も大切です。
このようなリハビリは家庭に帰っても必要になりますから入院中に家族の方も覚えておくと良いです。被殻出血の患者さんで意識障害のでなかった方はリハビリテーションをすることで手の細かい動作はなかなかできませんが、70%ぐらいの方が自力もしくは杖歩行が可能になります。家では歩き、外へ出る時は車椅子というレベルの人もいます。時間はかかりますが、希望を持って焦らずリハビリテーションに取り組んで下さい。脳内出血の人は一時うつ状態になって落ち込みますが、段々自分の現実を受け止めるようになります。家族の方も焦らずに見守っていてあげることが大切です。
(文責:髙橋 伸明)