転移性脳腫瘍は身体の他の部分にできた腫瘍(主に癌)が脳に転移してできるものです。
どんな病気
全脳腫瘍の18%あるいはそれ以上占めるとも言われています。また、癌になった方の約10%が転移性脳腫瘍を発症するともいわれています。実際の癌死亡例のうち肺癌で40%・乳癌で50%の人に癌の脳転移があります。
しかし、治療の対象になるのはもともとの癌が治療されていて、転移性脳腫瘍の治療によって一時的にせよ症状が改善し、Quality of life (QOL)(生活の質)が向上できることが原則です。
脳転移をおこす癌の割合
脳転移をおこす癌(原発巣といいます)でもっとも多いものは肺癌で、脳腫瘍全国集計(脳神経外科学会で行っている全国の脳腫瘍に関する統計)では転移性脳腫瘍の51.9%を占め、そのうち70-80%が男性です。次に多いのが消化器癌で14.9%、乳癌は9.3%・腎膀胱癌6.1%・頭頸癌3.2%・子宮卵巣癌2.6%です。
転移性脳腫瘍が分かるまで
肺癌では原発巣を治療してから転移性脳腫瘍が分かるまで平均3ヶ月で、非常に早く進行します。一方乳癌は転移性脳腫瘍が分かるまでの平均が40ヶ月で、よくなったと思った頃に転移します。脳に転移するということは、全身に癌細胞が回っていることを表しています。ですから転移性脳腫瘍が分かってから1年以内に50%程度の人が亡くなります。しかし例外もあり、治療をきちっと行えば数年にわたって有意義な生活を行っている人もいますし、治療法も進歩していますから希望を捨てないで下さい。
複数の腫瘍も治療が可能に
転移性脳腫瘍は1つだけではないことが多く、40%で2個・3個と多発性に発症します。多い時には10個所以上見つかることもあります。以前は腫瘍が1個だけの場合にしか手術はしませんでした。最近ではガンマナイフという放射線のビームをあてて治療する方法が開発されて、数多く腫瘍が見つかった場合でも治療をすることが可能になってきました。
どんな症状
転移性脳腫瘍も脳実質内にできることが多い腫瘍ですから、神経膠腫と同じように局所神経症状が起こり、その後頭蓋内圧亢進症状が起こります。ただ、転移性脳腫瘍の場合は周囲の脳の反応が強いため脳浮腫が広い範囲で起こりますし多発性のことが多いので、症状の進行は早く最初の症状がでてから1-2ヶ月のうちに頭蓋内圧亢進症状が出てきます。腫瘍から出血することやのう胞を作ることも多く、脳卒中のように急激に発症することもあります。殆どの例では原発巣の治療を行っています、稀には転移性脳腫瘍が先にわかったため、全身を調べて他の臓器に癌が見つかることもあります。
どんな診断・検査
脳の造影MRI検査
癌になった後主治医のもとに定期的に通院すると思います。この際に脳の造影MRI検査も時々行ってもらうと良いと思います。
単純CT・造影CT・単純MRIでは小さな脳腫瘍やわかりにくい場所の脳腫瘍を見逃すことがあります。特に乳癌の場合は癌の治療から数年経って転移性脳腫瘍が発症することが多いので、5年間は検査をすることをお勧めします。一応の目安としては5年を過ぎた検査で見つからなければ一安心と言えます。腫瘍が小さなうちに早く見つけて治療を行った方が治療成績は良好です。
PET検査
癌は何といっても早期診断・治療が大切です。PET検査を受ければ、無症状のうちに癌を発見することが可能です。PETとは陽電子放出断層装置という意味で、Positron Emission Tomographyの略です。特殊な薬(FDG)でがん細胞に目印をつけるというのがこの検査の特徴です。全身の癌転移も発見可能です。
どんな治療法
繰り返しますが、もともとの癌が治療されていて脳に転移性腫瘍があり、治療によって転移性脳腫瘍による症状が一時的にせよ改善し、Quality of life (QOL)(生活の質)が向上できる場合に治療の対象になります。
治療の対象にならない場合は脳浮腫を軽減させる点滴(グリセオール・マンニトール)や副腎皮質ステロイドホルモン(リンデロン・デカドロンなど)を飲みます。これらの薬は症状を取るのには非常に有効で数日で症状が取れてきますが、脳腫瘍が大きくなるとまた症状がでてきてしまい一時的な効果を期待した治療法です。
脳腫瘍が大きい場合は、開頭・脳腫瘍摘出術を行います。
脳腫瘍が10個以上ある場合は、全脳照射といって全部の脳に放射線治療を行うこともありますが、全脳照射は時間がかかり副作用もありますので、全身の状態を見て放射線治療を行わないで社会復帰を優先させる場合もあります。
脳腫瘍が小さかったり(3cm以下)10個以下の場合はガンマナイフ(他にリニアック・サイバーナイフと呼ばれるものもあります)で治療します。ガンマナイフで見つかった腫瘍をたたいておいて、その後に全脳に放射線治療を行う場合や、定期的にMRI検査を行い腫瘍が出てきたらその都度ガンマナイフを行う場合もあります。ガンマナイフ治療後平均生存期間は9.1か月で、治療した病巣の増大が原因の死亡は5.5%と転移性脳腫瘍が原因で死亡することは少ないです。
ガンマナイフ治療は局所麻酔で頭に枠をつけて、ガンマナイフの器械のベッドに寝て1-3時間ぐらいで終わるものです。2泊3日の入院期間ですので、QOLからみると大変良い方法です。
(文責:髙橋 伸明)
転移性脳腫瘍は身体の他の部分にできた腫瘍(主に癌)が脳に転移してできるものです。
どんな病気
全脳腫瘍の18%あるいはそれ以上占めるとも言われています。また、癌になった方の約10%が転移性脳腫瘍を発症するともいわれています。実際の癌死亡例のうち肺癌で40%・乳癌で50%の人に癌の脳転移があります。
しかし、治療の対象になるのはもともとの癌が治療されていて、転移性脳腫瘍の治療によって一時的にせよ症状が改善し、Quality of life (QOL)(生活の質)が向上できることが原則です。
脳転移をおこす癌の割合
脳転移をおこす癌(原発巣といいます)でもっとも多いものは肺癌で、脳腫瘍全国集計(脳神経外科学会で行っている全国の脳腫瘍に関する統計)では転移性脳腫瘍の51.9%を占め、そのうち70-80%が男性です。次に多いのが消化器癌で14.9%、乳癌は9.3%・腎膀胱癌6.1%・頭頸癌3.2%・子宮卵巣癌2.6%です。
転移性脳腫瘍が分かるまで
肺癌では原発巣を治療してから転移性脳腫瘍が分かるまで平均3ヶ月で、非常に早く進行します。一方乳癌は転移性脳腫瘍が分かるまでの平均が40ヶ月で、よくなったと思った頃に転移します。脳に転移するということは、全身に癌細胞が回っていることを表しています。ですから転移性脳腫瘍が分かってから1年以内に50%程度の人が亡くなります。しかし例外もあり、治療をきちっと行えば数年にわたって有意義な生活を行っている人もいますし、治療法も進歩していますから希望を捨てないで下さい。
複数の腫瘍も治療が可能に
転移性脳腫瘍は1つだけではないことが多く、40%で2個・3個と多発性に発症します。多い時には10個所以上見つかることもあります。以前は腫瘍が1個だけの場合にしか手術はしませんでした。最近ではガンマナイフという放射線のビームをあてて治療する方法が開発されて、数多く腫瘍が見つかった場合でも治療をすることが可能になってきました。
どんな症状
転移性脳腫瘍も脳実質内にできることが多い腫瘍ですから、神経膠腫と同じように局所神経症状が起こり、その後頭蓋内圧亢進症状が起こります。ただ、転移性脳腫瘍の場合は周囲の脳の反応が強いため脳浮腫が広い範囲で起こりますし多発性のことが多いので、症状の進行は早く最初の症状がでてから1-2ヶ月のうちに頭蓋内圧亢進症状が出てきます。腫瘍から出血することやのう胞を作ることも多く、脳卒中のように急激に発症することもあります。殆どの例では原発巣の治療を行っています、稀には転移性脳腫瘍が先にわかったため、全身を調べて他の臓器に癌が見つかることもあります。
どんな診断・検査
脳の造影MRI検査
癌になった後主治医のもとに定期的に通院すると思います。この際に脳の造影MRI検査も時々行ってもらうと良いと思います。
単純CT・造影CT・単純MRIでは小さな脳腫瘍やわかりにくい場所の脳腫瘍を見逃すことがあります。特に乳癌の場合は癌の治療から数年経って転移性脳腫瘍が発症することが多いので、5年間は検査をすることをお勧めします。一応の目安としては5年を過ぎた検査で見つからなければ一安心と言えます。腫瘍が小さなうちに早く見つけて治療を行った方が治療成績は良好です。
PET検査
癌は何といっても早期診断・治療が大切です。PET検査を受ければ、無症状のうちに癌を発見することが可能です。PETとは陽電子放出断層装置という意味で、Positron Emission Tomographyの略です。特殊な薬(FDG)でがん細胞に目印をつけるというのがこの検査の特徴です。全身の癌転移も発見可能です。
どんな治療法
繰り返しますが、もともとの癌が治療されていて脳に転移性腫瘍があり、治療によって転移性脳腫瘍による症状が一時的にせよ改善し、Quality of life (QOL)(生活の質)が向上できる場合に治療の対象になります。
治療の対象にならない場合は脳浮腫を軽減させる点滴(グリセオール・マンニトール)や副腎皮質ステロイドホルモン(リンデロン・デカドロンなど)を飲みます。これらの薬は症状を取るのには非常に有効で数日で症状が取れてきますが、脳腫瘍が大きくなるとまた症状がでてきてしまい一時的な効果を期待した治療法です。
脳腫瘍が大きい場合は、開頭・脳腫瘍摘出術を行います。
脳腫瘍が10個以上ある場合は、全脳照射といって全部の脳に放射線治療を行うこともありますが、全脳照射は時間がかかり副作用もありますので、全身の状態を見て放射線治療を行わないで社会復帰を優先させる場合もあります。
脳腫瘍が小さかったり(3cm以下)10個以下の場合はガンマナイフ(他にリニアック・サイバーナイフと呼ばれるものもあります)で治療します。ガンマナイフで見つかった腫瘍をたたいておいて、その後に全脳に放射線治療を行う場合や、定期的にMRI検査を行い腫瘍が出てきたらその都度ガンマナイフを行う場合もあります。ガンマナイフ治療後平均生存期間は9.1か月で、治療した病巣の増大が原因の死亡は5.5%と転移性脳腫瘍が原因で死亡することは少ないです。
ガンマナイフ治療は局所麻酔で頭に枠をつけて、ガンマナイフの器械のベッドに寝て1-3時間ぐらいで終わるものです。2泊3日の入院期間ですので、QOLからみると大変良い方法です。
(文責:髙橋 伸明)